Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ニーチェの『ツァラトゥストラ』―永遠回帰の思想と既視感
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.990
発行日 2003年10月10日
Published Date 2003/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100914
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ニーチェが1884年に書いた『ツァラトゥストラ』第三部(氷上英廣訳,岩波文庫)では,いわゆる永遠回帰の思想が語られている.至福の島から船に乗ったツァラトゥストラは,2日間の沈黙の後,船乗り相手に語りはじめるが,そのなかで彼は,「すべての真理は曲線なのだ.時間そのものもひとつの円形だ」と,一般相対性理論を先取りしたような時間論を展開しながら,次のように語るのである.「およそ走りうるすべてのものは,すでに一度この道を走ったことがあるのではなかろうか? およそ起こりうるすべてのことは,すでに一度起こり,行なわれ,この道を走ったことがあるのではなかろうか?」,「われわれはみな,すでにいつか存在したことがあるのではなかろうか? ――そしてまためぐり戻ってきて,あの向こうへ延びているもう一つの道,あの長い恐ろしい道を走らなければならないのではなかろうか,―われわれは永遠にわたってめぐり戻ってこなければならないのではなかろうか?」
そしてツァラトゥストラは,自分のそばで犬が吠えるのを聞いて,次のように思い至り,やがてそれが確信へと変わっていく.「犬がこんなふうに吠えるのを,いつか自分は聞いたことがあったのではないか? わたしの思い出は過去にさかのぼった.そうだ!子どものころ,遠い遠い昔に」,「いつか,犬がこんなふうに吠えるのを,わたしは聞いた.毛をさかだて,頭をそらせ,身をふるわせて吠えたてる犬のすがたを見た.(中略)ちょうど満月が屋上に,死のように黙々とのぼっていた.そのしずかに動かない円盤のかがやき,―それが平たい屋根の上にあった.」
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