Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ニーチェの『道徳の系譜』―障害とルサンチマン
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.395
発行日 2000年4月10日
Published Date 2000/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552109216
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1887年,ニーチェが43歳の時に発表した『道徳の系譜』(木場深定訳,岩波書店)は,ニーチェ自身,自分の思想を知ろうとする人には最も包括的で重要なものと語っていた作品であるが,そこには,病者や障害者を蔑視するような表現が見られる.
『道徳の系譜』の第三論文の中,ニーチェは,「病人は健康者にとって最大の危険である」,「人間の大なる危険は病人である」と,病者の危険性を繰り返し強調する.病者は「俺が他の誰かであったらなあ!でも今は何の希望もない.俺はやっぱり俺である.どうすれば俺は俺自身から抜けられるのか」と思っているため,「このような自己侮蔑の地床に,いわば本当の沼地に,あらゆる雑草,あらゆる毒草は成長する」のである.「そこには怨念や執念の蛆虫どもがうようよして」おり,「最も悪性の隠謀―上出来の者や勝ち誇った者に対する受苦者の隠謀の網が張られている」.「あたかも健康や上出来や強さや誇りや権力感情がそれ自体においてすでに背徳的な事柄であり,従っていつかは贖われなければならないもの,しかも苦しい目をして贖われなければならないものででもあるかのように」―.
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