Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ニーチェの『この人を見よ』―病むことの意味
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.992
発行日 2010年10月10日
Published Date 2010/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101879
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1888年10月15日,ニーチェは44回目の誕生日を期に『この人を見よ』(手塚富雄訳,岩波書店)を書きはじめたと記しているが,この自伝のなかでニーチェは,自らの人生において病気が果たした役割を繰り返し強調する.
例えば1880年の冬,37歳の時には,「血液と筋肉の極度の貧窮にもとづくと言える,すべてを甘美に,そしてかるやかに,霊的に感じ取る気持ち」が『曙光』を生み出したとして,次のように語っている.「三日間もひっきりなしにつづく頭痛と難儀極まる粘液の嘔吐がもたらす責苦のさなかに―わたしは,とびきりの弁証法的明晰さを所有していた.そして健康な時のわたしならとてもよじ登る気にはなれず,それを克服するだけの巧みさも冷静さももたないような事柄を,極めて冷酷に考え抜いたのである」.
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