Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年」—鑑賞者は現代日本の「この国に生まれたる不幸」に思いを馳せるだろう
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.1235
発行日 2018年12月10日
Published Date 2018/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552201513
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「夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年」(監督/今井友樹・66分)は,そもそも作られたことに意義がある.呉秀三に光を当てることは,日本の黒歴史を炙り出す営為につながり,社会の変革,改良に直結する可能性があるからだ.
本作は,呉秀三・樫田五郎『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』(1918)に依拠しながら,「座敷牢」に象徴される百年以上前の精神障害者の処遇実態を明示し,日本の精神医学,精神医療の先覚者・呉秀三(1865〜1932)の問題関心と認識形成の足跡を辿ったものである.呉は,1897年から1901年にかけてオーストリアとドイツに留学.ここで社会生活に近い開放的な環境で労働に勤しむ精神障害者を目の当たりにする.この体験が,後掲する呉の名言の起動力になったであろうことは想像に難くない.それゆえ本作のカメラもヨーロッパに飛ぶ.たとえば,呉が帰国前に訪問したとされるベルギーのゲール.ここは「里親」制度の名のもと,地域で患者を受け入れてきた地であり,精神科医療の先進モデル.
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