Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ニーチェの『反キリスト者』―「病める者とともに生きる存在」としての人間
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.182
発行日 2004年2月10日
Published Date 2004/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100550
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1888年にニーチェが発表した『反キリスト者』(原佑訳,筑摩書房)は,キリスト教を屈伏者の怨念と呪詛に満ちた宗教として全面的に否定した著作である.
『反キリスト者』のなかでニーチェは,「キリスト教は,すべての弱いもの,低劣なもの,出来そこないのものの味方となってきた」,「なんらかの背徳にもまして有害なものは何か? ―すべての出来そこないや弱者どもへの同情を実行すること」と主張して,キリスト教は,いわゆる弱者の味方であるがゆえに,有害な宗教であるとの考えを示す.「弱者や出来そこないどもは徹底的に没落すべきである.(中略)そのうえ彼らの徹底的没落に助力してやるべきである」と,弱者や障害者の権利を否定するような立場に立つニーチェにとって,彼らに同情を示すキリスト教は,人間本来の自然に反するものなのである.しかもニーチェは,「同情は,おおまかに言って,淘汰の法則にほかならない発展の法則をさまたげる.それは,没落にひんしているものを保存し,生に勘当され,断罪された者どものために防戦し,同情が生のうちで手離さずにいるすべての種類の出来そこないを充満せしめることによって,生自身に陰鬱な疑わしい相貌をあたえる」と,自然淘汰説的な考えから同情というものを否定的に捉えているため,弱者への同情を唱えるキリスト教を,健康や魂の優秀さに反抗する宗教として否定する.
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