Japanese
English
研究と報告
失語症と言語治療の心理的問題―精神障害を合併した外傷性失語の1例を通して
Psychological Problems in Aphasia and Speech Therapy.
渡辺 俊之
1
,
鈴木 淳
2
,
太田 哲司
3
Toshiyuki Watanabe
1
,
Jun Suzuki
2
,
Tetsuji Ota
3
1東海大学医学部精神科
2新潟リハビリテーション専門学校
3東海大学大磯病院リハビリテーション科言語治療室
1Department of Psychiatry, Tokai University, School of Medicine
2Niigata Rehabilitation College
3Department of Rehabilitation, Ohiso Hospital of the Tokai University, School of Medicine
キーワード:
失語症
,
言語治療
,
心理的問題
,
頭部外傷
Keyword:
失語症
,
言語治療
,
心理的問題
,
頭部外傷
pp.165-170
発行日 1998年2月10日
Published Date 1998/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108598
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
「涙がこぼれました,くやし涙でありました.これでも一線のジャーナリストで文学士だ.それなのに,小学生がやるようなアイウエオを初めからやり直さなければならない.そう思うとなんとも言えない屈辱感で涙が頬を伝わりました」,横田整三氏は「脳卒中リハビリ日記」のなかで失語症体験をこう語っている.
失語症は,身体,言語社会といったさまざまな次元での心理的葛藤を引き起こし,悲しみ,怒り,抑うつなどの情緒を喚起させる.しかし,失語症者の多くは,内的な葛藤や感情を,十分に言語化して他者に伝える方法を持たない.われわれが失語症者と関わる時には,彼らの数少ない言葉や表情,態度から,心の状態を理解するしかないのである.このため,失語症者の心理的問題は,他のリハビリテーション患者の問題に比較するとスタッフに理解しにくいテーマとなっている.しかし,その一方で,被害妄想や破局反応などの興奮や問題行動を合併する失語症者は,リハビリテーション施設で治療継続が困難な状況に陥る.
失語症者は,どのような心理状態に置かれるのであろうか,またどのような精神症状を合併するのであろうか,また言語治療士と失語症者の間には,どのような心理的相互作用が働いているのであろうか……,こうした点について明確にすることが本稿の目的である.
本稿では,筆者らが経験した外傷性失語の1事例を通して,失語症者における心理的問題と言語治療士の役割について述べる.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.