- 有料閲覧
- 文献概要
本格的な高齢化社会を迎えつつある今日,今後増加が予想される高齢化に伴う慢性疾患の多様化と重症化への対応は医学的,社会的な急務といえる.しかし,その実行は簡単ではない.なぜなら,国民の権利意識が高揚し,“豊かな生活”の証として医療と福祉の充実を求め,患者の立場でも“インフォームド・コンセント”に代表されるように「患者としての権利」を主張し,“人間らしく”遇されること,すなわちQOLの向上をも望み,医療を行う側に対しても厳しい対応を求めているからである.それのみではない.医療経済学的にみれば,増大し続ける医療費は20兆円の大台に達し,“医療と福祉の充実”の実現は財政的にみても厳しい状況にある.また,先進国の社会現象として医師の過剰が我が国においても問題になっている.医療の充実に向けて毎年8,000人にも及ぶ医師が養成されてきたことにより,全国の医師数はすでに20万人を突破し,20年前の100床当たり医師数4人が現在では9人に増えている.一方では地域住民と密着した医療を展開している開業医の平均年齢も59歳と,世代交代の難しい開業医自身の高齢化という問題も出ている.さらには北欧諸国に次いで病床数の多い我が国では,各病院が先端医療機器の整備を急ぎ,国民の大病院指向にますます拍車をかけている.それがまた医療機関間の過剰競争を生み,経営対策としての過剰診療,長期入院化といった問題をも生起させている.
では,効率的,効果的な医療と福祉を供給するにはどうすればよいのだろうか.私見を述べさせてもらえば,医療機関の役割分担を明確にし,隣接する病院間の競合を避け,無駄のない質の良い医療を供給すると同時に,基幹病院の指導の下にある開業医が地域医療を充実させることであろう.特に今後はなんらかの障害を持つ高齢者への対応という観点から“リハビリテーション”の持つ意義は大きいといえる.その理由は,高齢者への対応には“障害学”と“福祉”に関する知識が必要不可欠であり,その両者を包含しているのが“リハビリテーション”といえるからである.地域医療の中へのリハビリテーションの導入,それこそが医療と福祉の効率的かつ効果的供給へ向けての今日的課題といえる.その解決には“リハビリテーション”の知識を有する医師の地域医療への積極的参入が是非とも必要である.その点,日本リハビリテーション医学会も社団法人化され,公的人格を有するようになり,プライマリ・ケアを担う開業医に対しても広く認定臨床医資格を制定したことは,医療と福祉を包含した地域医療を展開させていくうえで評価に値するといえよう.
Copyright © 1990, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.