巻頭言
今こそ“地域リハビリテーション”
栗原 正紀
1
1長崎リハビリテーション病院
pp.209
発行日 2010年3月10日
Published Date 2010/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101718
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地域医療の崩壊は本当に身近な問題となってきている.医療財政やマンパワーの問題は大きいが,それだけが原因であろうか? 医療者と患者・家族の距離は大きく隔たり,医療の現場では頑張っても報われることが少なくなってきた.こころの貧困がはびこりつつあるようで切ない.この現状を克服するには,地域医療を作り直すことが必要であろう.
20世紀,日本の治療学・技術は目覚しい発展・進歩を遂げ,癌や多くの難病を克服した.救命率は向上し,世界でも秀でた長寿社会となった.そして,膨大な知識が蓄積され細分化されて,種々の専門家・専門職が輩出された.しかし,わが国は急速に高齢社会を迎えたため,従来の臓器別治療体系に基づいた医療提供体制が機能不全(ミスマッチ)を呈してしまった.急性期(救急)病院では,医師や看護師らが患者・家族との信頼関係に神経を使いながら高度な知識・技術を用いて必死に疾病の診断・治療を行っているが,患者の命は助かり病気は治っても生活の場に戻れないこともある.それでも,病院側は在院日数の短縮化のために退院を迫らざるを得ない.ついには家族から「助けてもらわなければよかった」などと言われてしまう.一体,何のために頑張ったのだ! 残るのは無力感である.これはまさに“高度に進歩した専門的臓器別治療が生活につながらない”ために起こる医療観の崩壊であり,“医療が目標を見失ってしまった”のである.
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