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はじめに
運動失調症は協調障害に基づく四肢巧緻性の低下や立位・歩行時の平衡障害など,いわゆる姿勢・運動に対する失調症状を背景とした多岐にわたる能力障害を呈することが知られている1).上記障害に対して種々の運動療法が提唱されているが,その理論的根拠や各手技の適応を含めた治療体系を論ずるには不十分な点も多く,運動療法場面における有効性や日常生活における応用に疑問のあるものも数多く経験される.そのため運動失調症そのものは稀な疾患でないにもかかわらず,他の疾患(例えば脳血管障害による片麻痺)のような一定した治療概念が確立されておらず,一般的にはある種の“とりつきにくさ”が印象として持たれていることも事実である.
これは振戦や測定障害,拮抗運動反復障害,その他の症候学的所見が,必ずしもADLとして知られている機能障害やその重症度(障害度)と有機的に関連していないということに原因があると筆者らは考えている.事実,振戦の強い患者が必ずしも手指の巧緻性を通して強いADL障害をもたらしてはいない例があったり,症候学的に下肢の測定障害が軽度であっても著しい歩行障害を呈する例を経験するからである.これらの事実は,リハビリテーション医学の重要な課題であるADLに対して広く対応するためには,現在の症候学的検索のみではなく,より相関性の高い障害学的な評価観点が必要であることを示唆している.
そこで筆者らは,運動失調症において障害されやすく,かつADL上も重要な「歩行・移動能力」に焦点を合わせ,協調・平衡障害との関係を分析した.従来の運動療法理論では,躯幹と下肢を区別することなくとらえていたが,ここでは躯幹と下肢とをそれぞれの要素に分解することで,歩行・移動能力との高い相関が得られないかどうかに注目して検討を行った.内山ら2)のこれまでの検討では,躯幹および下肢の協調能のうち前者が歩行・移動能力に強く影響しているとの結果を得ているため,今回は特に躯幹協調能を定性・定量的に評価しつつ,歩行・移動能力との関係に重点をおいて研究した.しかし,言うまでもなく,躯幹協調能の影響を検討することは,同時に下肢協調能の影響も相対的に浮かび上がらせることとなり,失調症患者の障害特性を従来よりもさらに明確にすることにほかならない.
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