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まえがき
歩行のエネルギーの測定は宮下1)によれば,1912年頃よりDouglas等によって始められたとされ,以来その測定の目的は運動生理学,労働科学,体力科学,人間工学,医学の各分野ごとに多岐にわたっている.その中で歩行に障害のある例については,Fisher等2)は切断者,片麻痺,両下肢麻痺等を対象に1930年以降の業績について文献的考察を行っている.
これらの知見を参考にすると,歩行障害例についての主な研究目的は,歩行の生理学的負担度の検討,義足,下肢装具等の製作にかかわる設計上の因子の優劣の比較,杖を含めた各種の歩行補助具の効果の判定などであり,これらの目的に沿うために幾つかの定量的指標が考慮されている.これらの定量的指標の基礎となったものが1927年におけるAlzler等3)の研究と思われ,彼等は健常人においてストライドと歩調を様々に変化させた時に,単位距離当たりのエネルギー消費量cal/mの測定データーより,それぞれ異なった歩行スピードにおいてcal/mの値を最少にするための最適な組み合わせが両者の間に存在することを示している.次いで彼等はDurigによって名付けられたWegkonstante(k=cal/D.L D:体重,L:歩行距離)が歩調,ストライド,歩行スピード等と比較して変動幅が少ない値であることを示した.
梅谷等4)はバイオメカニズムの領域で人工機械の移動様式の評価関数として用いられてきた指標を新たに移動仕事率εと名付け,ε=E/wl(E:移動に必要なエネルギー,W:移動体重量,l:移動距離)で定義し,このεがほふく運動,2足歩行,車輪歩行等の移動様式に関する評価指標として妥当性があることを実験的,理論的に示している.なおこの移動仕事率はDurigのWegkons tanteと同一のものであることは定義式より明らかである.
江原5)は移動運動のエネルギー消費に関しとくに移動の効率に着目して広範囲な文献的考察を行っている中で,運動に必要なエネルギーに対する有効エネルギーの比で定義される移動の効率は移動様式の性能の優劣を判断する指標とはならないことを指摘している.そして移動様式の損得の大きさを移動能率と名付け,この指標は梅原等の定義した移動仕事率と同一の式で表わし得ると述べている.
cal/kg/mが移動様式の能率の良否を表わす指標であることは定義式よりうなずけることであるが,この指標を動力学,運動学的な歩行の検査項目とともに日常実施可能な検査項目の1つとすることは必ずしも容易ではない.その理由として歩行のエネルギー消費の検査にはある規模の測定装置を必要とすること,および歩行障害者にとってガスマスクを装着して歩行を行うことは大きな負担になることが挙げられる.そこで著者等は片麻痺症例を対象とし,歩行のエネルギー消費量とともに,心拍数,歩行スピード等の測定を行いこれらのデーターをもとに歩行の能率を簡便に推定し得る方法について検討を行い,併せて片麻痺の歩行の能率に影響を考える要因について検討を加えることにした.
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