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はじめに
脳卒中(以下CVDと略す)の患者の多くは,リハビリテーション(以下リハと略す)の施設を退院しリハのスタッフの手から離れた場合,積極的な自主訓練を行わないかぎり入院中に獲得した能力が次第に低下することが知られている.この間の情況を横山ら1)のCVD526例の10年間にわたる追跡調査の成績にみると歩行不能者,つかまり歩行者は退院1年後から漸増し,10年後には歩行不能者12.1%(退院時3.6%),つかまり歩行者は10.7%(退院時4.6%)に達するとしている.一方退院時歩行能力の高い屋外歩行者では退院後3年位まではほぼ退院時の比率が保たれ,10年後に至って54.2%(退院時60~68%)と軽度の低下にとどまると述べている.
これらの成績は退院時の歩行能力の程度が退院後の歩行能力の維持と密接な関連をもつことを示しており,歩行能力の維持が困難と予想される症例に対する予防的対策はきわめて重要な課題と考えられる.佐直2)は脳卒中のリハの効果を論じている中で,退院後の機能の回復はリハ訓練で得られた独立性を現実の生活の場でどのようにして維持し適応性を拡大してゆくかが重要であると述べている.また高橋ら3)は病院における各種の訓練によって到達した機能レベルを維持し,改善を目指すことをホームプログラムの目的とし,患者および家族の指導を含めたホームプログラムの重要性が一般に広く認識される必要性があると述べている.このようにリハにおける能力維持の重要性はすでに諸家により認められているが,具体的なプログラムについて述べられている研究は少ないように思われる.著者らはリハによって獲得した能力を維持し,可能な限りさらに向上させようとするプログラムを能力維持プログラムと名付け,対象となる能力別に1)歩行能力維持,2)上肢の運動能力維持,3)身の廻り動作能力維持,4)コミュニケーション能力維持などの4つのプログラムに分けることにする.この4つのプログラムの中で歩行能力の維持は身の廻り動作独立の基本となり,また基礎的な体力の維持と密接な関りがあるプログラムである.河野ら4)はCVDの患者がリハ施設を退院後疾病の性質上,再発作の予防の上からも毎日conditioning exerciseが必要なことを述べ,これらのexerciseがどのような運動をどれだけ行ったら良いかといった運動処方の面では従来ほとんど手がつけられていないことを指摘している.本稿では能力維持プログラムを体系づけるためのアプローチとしてまず歩行能力維持プログラムを取りあげ,CVDのリハの中ではなお,未開拓といってもよい運動処方の考え方をとり入れ,実際の症例を加えながらプログラムのあり方について検討を行った成績を述べたいと思う.
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