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はじめに
脳血管障害片麻痺(以下片麻痺と略す)のリハビリテーションプログラム(以下リハプログラムと略す)の中で,運動負荷または運動負荷テストを実施する必要性が生じる場合を考えてみると,凡そ以下の諸点は要約することができよう.(1)まず,一般的にいえることとして,土肥1)の述べているごとく,日常生活と同程度の運動負荷によって耐容度を評価し,その成績によって過不足のないリハプログラムを進めるという立場をとるとき,(2)内科的管理上必要が生じる時,例えば頻発性期外収縮3)・心房細動,心筋梗塞の合併等の心電図所見がみとめられる時,(3)内科的合併症または何らかの理由で,長期臥床を余儀なくされている症例,ことに高齢者の場合には,心肺系の予備能力の減退3,4)が予測されるため,運動訓練プログラムの導入に際して,漸増的運動負荷法を適用する必要が生じるとき,(4)比較的早期よりリハプログラムを実施し得た症例であっても高次脳機能障害がある場合,運動機能の回復が遷延するため,心肺系の予備能力,健患側の筋力の両者を維持する目的にかなった運動負荷法の必要性が生じるとき,(5)運動療法のプログラムが,心肺系の適応能力に対して,どの程度の訓練効果があるかを知るために,歩行前期より実施可能な運動負荷テストが必要となるとき,これらの臨床的な要請を満たすため,従来片麻痺に対して実際に種々の運動負荷テストが行われてきている.運動障害をともなわない心肺系疾患を対象とした運動負荷テスト5~7)は,負荷様式,負荷条件,計測値の判定基準等について,ほぼ標準化がなされており,採用されている主な負荷様式は,トレッドミル法,自転車エルゴメーター法,階段昇降法の3法が一般的である.しかしこれらの負荷様式を直ちに片麻痺に適用することは実際に困難なことが多く,先述の臨床的な要請を満たすためには,負荷様式,負荷条件等に何らかの工夫を行うことが必要となる.Kaltenbachが開発し,兼本等8)により紹介されている“棒つかまり踏み台昇降試験”は,片麻痺では健手の支持で15~20Cmの台を用いれば,実施可能な症例は多いと思われる.河野9)は片麻痺に対して,自転車エルゴメーターを用い,負荷漸増法による全身持久性の評価を行っているが,著者等10)の実験によれば,ペダリソグ操作は片麻痺にとって必ずしも容易な動作とはいい難いと思われる.その他として,児玉等11)の下腿四頭筋訓練器を用いたもの,佐藤等12),斧等13)のArm strain testによるもの,太田等14)の上下肢に滑車による垂錘抵抗および固定自転車を用いたもの,土肥等15)のハンドグリップと階段昇降を併用したもの,平上等16)による坐位からの起立運動によるもの等の報告がある.これらの知見は片麻痺にとって,従来心肺系疾患に用いられてきた運動負荷法がある限定された範囲内で応用することが可能であることを示していると思われる.著者等はこれらの知見を整理し,平上等16)の知見を参考として夫々の負荷法を適用できる範囲を明確にする目的で,対象者の運動能力に対応させつつ,負荷様式に関して以下の様な4つの段階を設定し,これを運動能力別多段階負荷法と呼ぶことにした.
第1段階:臥床期に実施可能なもの(背臥位における健上下肢を主体とする抵抗運動法等).
第2段階:歩行前期に実施可能なもの(健手支持による坐位からの立ち上がり運動法等).
第3段階:杖歩行期に実施可能なもの(平地歩行法,台昇降法等).
第4段階:杖なし歩行期または下肢機能の良好なものに実施可能なもの(トレッドミル法,自転車エルゴメーター法等).
これらの段階の中で今回は第2段階の健手支持による立ち上がり運動法(以下立ち上がりテストと称する)について検討を加えることにした.この運動はHirschberg17)により,片麻痺の歩行前期の訓練として採用され,また平上等16)により大多数(77.1%)の症例に実施可能といわれている負荷法である.立ち上がりテストに関する主な研究目的は次のごとくである.
1)負荷条件の設定を行うこと,2)一定の負荷条件における心拍数,代謝量,血圧,心電図等の各パラメーターについて,健常人のデーターとの対比を行いつつ,クラス化を行い,テストの成績の判定基準を設定すること,3)本テストの臨床応用について検討すること.
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