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はじめに
近年,交通事故,労働災害さらにスポーツ事故などの後遺症として,高位頸髄損傷による四肢麻痺者(以下,高位頸損者と略す)が増加しつつある.救急医療の進歩により,生命はなんとかとりとめたものの,首から下の部位がほとんど麻痺してしまい,自力で移動することはもちろんのこと,基本的な日常生活動作(ADL)すら,ほとんど不可能となる場合が多く見られる.リハビリセンターで十分な治療や訓練を受けた後,家庭へ復帰しても,家屋内における車椅子での十分な移動スペースが確保できない,十分な介助の手がないなどの理由から,一日中,何をすることもなく天井を見つめて過している人も少なくない.彼らにとってこのような状態は,中途障害であるだけに,より一層,精神的負担が大きい.また身の回りの世話をする介護者にとっても,その身体的,精神的負担は,はかり知れない.まして,現在のわが国においては,彼らが職業的に自立することは,ほとんど不可能に近い状態である.
これらの問題を,少こしでも解決するために生み出されたのが,環境制御システム(Environmental Control System: 以下ECSと略す)である.ECSは,1960年代初期の英国に誕生し,電子工学の進歩とともに成長し,現在40種類以上のシステムが開発,実用化され,特にイギリス,アメリカ,ヨーロッパなどで広く普及している.わが国においては,実験的使用を除くと,ほとんど実用使用の域に達していないのが現状である.ここでECSとは,障害者が,自身を取り巻く諸々の環境に対して働きかけようとする時,彼の身体的に欠如した機能を補い支援するための,電子工学を応用した生活援助システムである.さらに,その環境とは,図1に示すように,障害者,家族(介護者),他者(健常者,障害者)さらに社会などより構成される.ECSの果たすべき機能としては,①生命維持,②生活介助,③教育・娯楽,④通信(コミュニケーション),⑤職業援助などが考えられる.しかし,現状での実用化システムのほとんどが,上述したすべての機能を満足するには至っていない.
また,欧米などにおいてすでに実用化されているシステムをわが国でそのまま使用することは,生活習慣および言語のちがい,高額であるなどの大きな問題を含んでいる.以上のことから,わが国の実状にそくした独自の新しいシステムの開発が強く望まれている.
そこで,最近私達が新しく開発したECS関連装置を,若干の評価をまじえて紹介する.
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