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日本での体力の基本的定義は「生きるための基礎的能力」とされ,「行動体力」と「防衛体力」に分類されている.前者は行動を起こすための身体的要素や能力を,後者はストレスや疾病に対する適応力や抵抗力を指すものされている.「防衛体力」には生体の恒常性の維持に関わる自律神経系・内分泌系や免疫系もその構成要素として考えられており,心と体の健康を維持する能力として捉えられている.
ただし英語では体力は「physical fitness」に相当し,基本的には身体的な要素・能力に限定され,「mental fitness」とは区別されている.「fitness」には適応性の意味もあるので,身体的なストレスや負荷に対する適応力とその結果である「健康」をも含む概念である.一方「防衛体力」を「体力」に含めるのはわが国独自の考え方で,「広義の体力」と言われる.ただし「防衛体力」は評価するための尺度が確立されていないので概念的なものとして理解しておくとよい.このような用語の違いは,比較文化論の立場から大変興味深い点だが,本稿の趣旨ではないので別稿に譲る.ちなみにダイエット(diet)は「食事」を意味し,英語では「exercise」である「運動」は含まれない.特に肥満者の減量のための食事を「diet」ということがあるが,最近は肥満でない方が減量のために運動をすることをダイエットと称している事例がみられる.これは二重の誤訳になるが,これも原義と異なる日本語としてのダイエットなのかもしれない.さて本稿でのテーマ「体力向上」では身体的な要素・能力に限定したいわゆる英語圏での「physical fitness」,日本で言う狭義の体力「行動体力」として話を進めていく.
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