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Q1 ポリオとは何か? またポストポリオ症候群とは何か?
ポリオ(急性灰白髄炎)は,脊髄前角細胞や脳幹がポリオウイルスによって冒される疾患である.ポリオウイルスは抗原の相違からⅠ~Ⅲ型に分類され,ポリオ罹患者の多くは,Ⅰ型ウイルスが関与している.感染者の糞便などから手指や飲食物を通じての経口感染が主であり,咽頭や腸管内で増殖後,各リンパ節組織内でさらに増殖し血中に侵入する.脊髄前角細胞や脳幹部など神経組織との親和性が強いため,これらの運動神経を侵し,弛緩性麻痺や球麻痺をもたらす.しかし,中枢性の麻痺を生じるのは1~2%であり1),90~95%は何も症状がなく,不顕性感染のみで終わる.弛緩性麻痺は,感染から12~18か月までは回復の可能性がある2).この麻痺の回復機序は,①部分的に障害を受けた前角細胞の機能回復,②前角細胞から分枝した軸索が脱神経筋を再支配,③残存筋線維の肥大と考えられている3-5).
わが国では現在,野生株ポリオウイルスによる発症は認められないが,経口ポリオワクチンによる罹患例が報告され,不活化ワクチンへの見直しが進められている.日本では昭和35年にポリオの大流行があり,その後ワクチンの普及により患者は激減し,昭和40年代よりほとんどその新たな発症をみなくなった.しかし,昭和20~30年代にポリオに罹患した人々が次第に中高年に近づくにつれて,筋力低下,関節拘縮,四肢体幹の変形,痛み,歩行障害の増悪,日常生活動作(activities of daily living;ADL)の制限などの機能障害や能力障害を生じてきた.この病態がポストポリオ症候群(post-polio syndrome;PPS)である.すなわちPPSでは,通常通り社会生活や日常生活を送っていたポリオ罹患者が,発症から10~50年の安定期の後,新たな筋力低下,筋萎縮,筋・関節痛,易疲労感,歩行障害,嚥下障害などのさまざまな症状を生じる.PPSの診断基準は表1の通りである6).PPSの発症は,ポリオ罹患者の28~64%と言われており7),わが国でのPPSの発症率は,人口10万人あたり18.0人と報告されている8).発症要因としては,加齢,過重労働,廃用,過用,体重増加などが考えられている9).また一般的にポリオ患者は「頑張り気質」が多いと言われ,勤勉家が多く,仕事も熱心であり,手を抜くことができずに無理を強いる傾向にある.これがよりいっそう過用を進行させている3,10).リハビリテーション科医がポリオ罹患者の病態を適切に診断し,生活指導などの介入を適切に行うことにより,PPS発症を防ぎ,あるいは悪化を防止することが重要である.
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