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あとがき
坂本 穆彦
pp.1588
発行日 2010年11月15日
Published Date 2010/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102484
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名は体を表すというが,表意文字である漢字で書く病名を見ると,その特徴がうまく象徴的に示されている.肝硬変,心筋梗塞,胆石,痛風,白内障などなど……これらの病名を考案した先人には脱帽である.そのような見方で脳卒中を見るとどうなるだろうか.脳は部位を示す名称だからおくとして,ここではほかの2文字についてみてみよう.
まず“卒”であるが,この文字は一兵卒などと用いられるように,位の高くない兵士や召使い,しもべに当てられる.そのほかには急なあわただしい出来事の際の“急に,にわかに”という意味がある.脳卒中は,急に,にわかに発症するから,この病気のイメージを適確に示している.さらに卒には“終了”あるいは“ついに”という意味もある.卒業という語を見ればそれがわかるが,一語でも「~卒」といえば,その学校などの課程を終えたことを表す.他方,脳卒中は日本人の死因の上位にランクされており,死とは背中合わせの病気でもある.したがって,脳卒中の卒という文字に込められたもう1つの側面の“ついに”であるが,これは終了とも重なりあう.すなわち死に通じるニュアンスをうかがうことができる.
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