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はじめに
成人片マヒ患者の治療におけるボバース・テクニックの特徴は,ボバース自身次のように述べている.
片マヒ患者の治療は,痙性(spasticity)を最少限にくいとめる.すなわち,患側の運動パターンが,共同運動パターンの支配にはいるのを未然に防ぐこと,あるいは,痙性を抑制した状態で正常パターンを練習させる,つまりキイ・ポイント(key points)を主体にして反射抑制パターンを操作し,同時に正常な随意運動を促進させることである.
このような考え方に基づいて,通常の筋力増強訓練は,セラピストの余分な影響を受けて異常パターンが強められたり,痙性が永続的になるおそれがあるとしている.
また同じ目的をもつ他の神経生理学的アプローチについて,すなわち,Kabat,Knottの最大抵抗訓練(heavy resistance exercise)や啓発(irradiation),あるいはBrunnstromの連合反応応用法(use of associated reactions)などの治療法については,いわゆる弛緩した弱い筋や,無反応筋に対しては役だつかもしれないが,上位運動神経障害患者には,むしろ避けるべきであるとも述べている.これはご存知のように,ボバースが脳性マヒ児を対象にする以前に,成人片マヒ患者の治療を仕事としていて,前に述べた幾つかの方法を試行してみて,多くの問題を経験した結果からの意見である.
成人片マヒ患者と脳性マヒ患者に,中枢神経系損傷患者として深い洞察を積み重ねて,ボバース・アプローチを確立させてきている現在でも,他の大家の理論を採用したり,テクニックを自ら実践してみて,より有効で実質的な治療に結びつく方法を,模索しつづけている.テクニックも単なる模倣でなく,自分のものとして消化し,それにきびしい批判を加えてそのすぐれた治療法を更に越えて,自分の治療体系を発展させているボバースの態度に,われわれセラピストは大いに学ぶところがあるだろう.
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