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あとがき
酒井 邦嘉
pp.730
発行日 2022年5月1日
Published Date 2022/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202107
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将棋の対局中継を衛星放送(CS),ケーブルテレビやインターネットで観戦できるようになって久しい。近頃はAI(人工知能)による形勢判断や候補手予測が画面に出るようになった。対局者は自分の頭脳だけが頼りで,むろんAIの判断は見えていない。それゆえ,一手一手が試験問題の答合せのようで心が痛む。しかしそうであればこそ,棋士が長考の末に妙手を選択したときには喝采を送りたくなる。AIと違って人間は,勝負のプレッシャーや時間の制限などで失敗をするものだ。たとえ失敗したとしても,次に挽回したり,ミスを認めたうえで最善を尽くしたりするところに,棋士の人間性が現れる。
「『分かりそうだけれど分からない』ことが,将棋の楽しさであり,深く考える入り口に立つ飛躍の機会でもあるのです」と羽生善治九段が述べていた(『羽生善治の将棋「次の一手」150題』成美堂出版)。藤井聡太五冠は,数々の最年少記録だけでなく,時に「AI超え」とも評される妙手で話題を呼んでいる。既に棋史に残るとの呼び声が高い「後手6二銀」や「先手4一銀」(『藤井聡太の鬼手』日本将棋連盟)といった奥深い指し手は,人間の英知に対して新たな可能性を感じさせてくれる。
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