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あとがき
酒井 邦嘉
pp.1170
発行日 2017年10月1日
Published Date 2017/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200890
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写真好きだった義父が他界して遺品を整理したところ,ライカカメラ社のレンズが手元に残った。これまで私は主にカール・ツァイス社のレンズを使っていて,ライカは縁遠かった。というのもライカとツァイスは,戦前からドイツカメラを代表するライバル同士だったからだ。ライカのカメラを使い始めて,写真撮影に対する哲学や美学に興味を持った。
まず驚いたのが,白黒写真しか撮れないデジタルカメラである。写真のカラー化とデジタル化が進んだ今なお,芸術における白黒写真の価値は不動だが,カラーでの撮影後にデジタル処理でモノクロームに変換するわけで,カメラの機能自体を制限するという発想はそれまでなかった。撮像素子に接するカラーフィルター(RGBベイヤー配列)を取り去れば,画像がよりシャープになり解像度も倍増するという利点は確かにある。しかしそれ以上に期待される効果は,モノクローム撮影を前提とすることで撮影者の「光を読む力」が発揮されることではないか。モノクロームの世界は,「光と影」あるいは「全か無か」の両極端ではない。むしろ白黒の中間となる豊潤な「階調」こそが,芸術的表現の源泉なのだろう。
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