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あとがき
三村 將
pp.842
発行日 2025年7月1日
Published Date 2025/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770070842
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関西地方は大阪万博でおおいに盛り上がっている。しかし,それ以上に筆者が興奮したのは京都と奈良の国立博物館と大阪市立美術館の3館で同時開催された特別展である。実に日本の国宝の3割に当たる260件超がこの時期に関西地区に一堂に集結したことになり,まさに歴史的快挙である。京都・奈良・大阪のいずれの展示も見応えがあり,数多くの印象深い作品に出会ったが,京都では久しぶりに宝誌和尚立像を拝ませていただいた。
この特異な鉈彫の一木造りのお像は京都の西往寺から京都国立博物館に寄託されているが,滅多にお会いすることができない。宝誌和尚は5〜6世紀の中国・南朝の僧で,不思議な霊力があったことが『宇治拾遺物語』にも記されている。3人の絵師が宝誌和尚の肖像を描こうとしたとき,「待った,本当の顔がある」と額を親指の爪で開き,内から菩薩の顔が現われたと伝わっている。その様を木彫で表した像が平安時代に作られた宝誌和尚立像で,たぶん他に類例がない。和尚の左右に割れた顔と中央の菩薩の顔は外見からは区別できない。普段は表には見えない内部の仏の顔が具現する瞬間を捉えた宝誌和尚立像の発想の独創性には驚かされる。

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