--------------------
あとがき
酒井 邦嘉
pp.96
発行日 2024年1月1日
Published Date 2024/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416202566
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
先月号の特集,「アガサ・クリスティーと神経毒」の企画を担当した。私は少年時代からミステリーが大好きで,特に「刑事コロンボ」の影響が大きかった。クリスティーを本格的に読み始めたのは大学院生のころで,意表を突くプロットの数々に傾倒していった。最近は謎解きで味わう意外性はもちろん,人がなぜ嘘をつくのかに興味を持っている。
ミステリー作家である道尾秀介さんの講演を聞いたことがあるが,ページをめくったときに「あっ」と言わせるように,見開きページの中で文章の長さを調整しているそうだ。その趣向の極みが,『いけない』(文藝春秋,2019)という作品である。各章の最後のページをめくったところに,一枚の写真が挿入されている。それを見たとたん,「はっ」と想定外の真相に気づくだろう。私の場合,話によっては多少時間を要するものもあったが,書かれていない結末を自分で推理して頭の中に話を再構築したほうが,読後感が格段に強まると感じた。この読書体験は新鮮かつ強烈なもので,ストーリーの細部に至るまで,容易には忘れそうにない。
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.