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新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世界的に猛威を奮っている。図らずも現代の科学や医学について考える機会になった。第1に,未知の疾患の恐怖と向き合いながら,わずか2カ月間で,ウイルスの同定や構造解析,臨床像の分析,そしてランダム化比較試験まで成し遂げ,科学的エビデンスを築いた世界の研究者,医療者の貢献に感動した。特に中国やシンガポールの研究者,医療者の活躍に驚嘆したが,その一方で日本は世界と歴然とした差をつけられてしまったと感じた。長年にわたり科学・医療分野に投資した国とそうでない国の差が如実に現れたように思う。『Nature』誌は数年前から警鐘を鳴らしていた1)が,日本は人口あたりの論文数,大学の研究資金,研究者数,そして博士課程の学生数もいずれも先進国で最低レベルである。私たちは失速した日本の科学の現状を認識し,これからどうすべきかを真剣に考える必要がある。
第2に,緊急時における科学の質の保証について考えさせられた。1つは論文の質の問題である。今回初めてmedRxiv/bioRxivというプレプリントサービスに登録された論文を多数読んだ。これは査読前の医学,生物学分野の論文を受付け,新しい知見の迅速な共有やフィードバックを可能にする利点がある一方,登録論文は玉石混交であり,論文の質を見極める能力がなければ,その共有は誤った情報の流布につながると感じた。もう1つは臨床試験の質の問題である。既に中国では抗HIV薬の効果についてランダム化比較試験による検証を完了し,論文として報告した2)。一方,本邦ではシクレソニド(オルベスコ®)やファビビラビル(アビガン®)の効果の検証が「観察研究」として行われると言う。一刻も早い薬剤の開発が望まれるとは言え,これらの薬剤は未承認薬,適応外薬である。ディオバン事件などを契機として,臨床研究を国の監視下で適正に行うために制定された臨床研究法によって最も規制されるべき「特定臨床研究」に該当する。緊急時という名のもとに,科学の質がないがしろにされることがあってはならない。
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