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本号の特集は手の症候学です。手を診る,ということが神経学の原点の1つであることを改めて認識させられる優れた総説がずらり並んでいますが,「手」ということで思い出すのは本誌65巻12号の連載「神経疾患の疫学トピックス」第3回において,桑原 聡先生らにより紹介された『JNNP』(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry)論文です。読者の先生方も,第2指が第4指に対してより短いのがALSのリスクである,というのを読んで,ご自分の手を(私と同じように)しげしげとご覧になったものと思います。この第2指:第4指比が胎児期のテストステロン曝露量と関連するというのも驚きで,前角細胞のアンドロゲン受容体との関係も浮かび上がってきます。性差,性ホルモンの神経学というのも,これから注目される分野になるかもしれません。
話は大きく飛びます。この号が出版される頃には,米国大統領候補は民主党・共和党とも一本化されているでしょうか。民主党はヒラリー・クリントン氏で決まりとずっと言われていましたが,対抗馬のサンダース氏が意外な善戦を展開しており,まだまだ予断を許さない情勢が続いています。サンダース氏の議論はとても米国の大統領候補とは思えないような社会主義的なもので,よく彼の地の人がこういう主張を受け入れるものだと驚かされます。私はヒラリー氏の演説を目の前で聞いたことがあります。米国留学中の1992年,ヴァージニア州で両党候補(対するは再選を目指す父ブッシュです)のディベートがあった後にビル・クリントン候補が州都リッチモンドの市庁舎で演説を行うということで,ラボの仲間と聞きにいった(見にいったというほうが適切かもしれませんが)のですが,米国中をずっと遊説していたビル氏はもう声がまったく出ない状態になっており,「代わりに妻のヒラリーがしゃべる」と一言告げて後ろに下がってしまいました。お目当てが消えてがっかりと思う間もなくヒラリー氏が壇上に現れ,明晰かつ明快,見事な演説を披露してくれました。終わって壇上に並んだビル氏が「彼女はよい仕事をしただろうか」とガラガラ声でコメントした後,割れるような大拍手が起こったのを今でも鮮明に覚えています。ご存知のようにビル氏はこの後第42代アメリカ合衆国大統領に就任するのですが,当時無名であったヒラリー氏の力も与ったことは間違いなく,米国にはすごい女性がいるものだとつくづく感じ入りました。四半世紀を経て女性大統領は誕生するのでしょうか。
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