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あとがき
中野 今治
pp.478
発行日 2008年4月1日
Published Date 2008/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100271
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福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)の脳は,複雑に錯綜する細かい脳回と脳回同士の癒合像を呈する。1980年代の半ばに私がNHO下志津病院の筋ジス病棟に勤めていた頃には,その異常構造が形成される機序は不明であった。
数年経って,私が東京都神経科学総合研究所に移った頃には,本症の出生前診断が可能となり,人工流産した胎児脳が検索できるようになった。同じ頃,同研究所に小児神経病理の専門家である高田邦安先生がおいでになった。あるとき,戸田達史先生(現大阪大学教授)から高田先生のもとにFCMD胎児脳1個が検索のために送られてきたが,高田先生が急逝されたために私に検索の依頼がきた。
正常の脳表は,アストロサイトの突起とそれが作る基底膜から成るグリア限界膜で覆われている。FCMD胎児脳では,このグリア限界膜に各所で穴が空いており,そこから皮質ニューロンが脳外に遊走していた。電子顕微鏡で観ると,基底膜が穴の縁で鋭い刃物で切られたように途切れており,遊走してくる皮質細胞群の圧に負けて穴ができたと考えにくかった。一方,大脳皮質でグリア限界膜が保たれている箇所では,皮質ニューロンの遊出もみられなかった(Nakano I, et al., 1996)。つまり,遊出の原因は,グリア限界膜の穴であると推測された。
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