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あとがき
中野 今治
pp.1224
発行日 2007年10月1日
Published Date 2007/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100167
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)の神経症候は進行性の筋萎縮と筋力低下であり,神経病理所見は下位運動ニューロンと上位運動ニューロンの選択的変性である。このことには誰しも異論を挟まないであろう。
しかし,脊髄前角の変化ひとつを取り上げてみても,ことはさほど単純ではない。脊髄前角のニューロンを詳細にマッピングした研究は,大型ニューロンのみでなく,中型と小型のニューロンも脱落することを示している。しかも,罹病期間が長い症例ほど,その傾向が強い。また,大型ニューロンが高度に脱落していても罹病期間が短い症例では前角の萎縮は目立たず,萎縮は経過の長い症例で初めて明らかになる。つまり,ALSでみられる前角の萎縮は,大型ニューロンのみでなく,中型・小型の神経細胞とその突起(大部分は樹状突起)も脱落していることを意味している。さらには,ALSの脊髄では皮質脊髄路のみでなく,前側索が変性することが従来から指摘されている。これも中型・小型ニューロンを起始細胞として脊髄内で終始する線維路(propriospinal tract)や網様体脊髄路の変性によるものと推測されている。中型・小型ニューロンの変性は,臨床像に反映されないことからほとんど注目されていないが,ALSの病態機序に迫るための手がかりとなる重要な所見である。
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