昨日の患者
ある日,"母"を見た……菩薩か夜叉か
渡辺 健二
pp.226
発行日 1994年3月30日
Published Date 1994/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413901188
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昨日といっても15年程前になる。8歳のLesch-Nyhan症候群の男児を受け持った。精神緊張時の舞踏病様アテトーゼ運動・首を激しく反る発作性運動・自咬症を特徴とするこの症候群は伴性劣性遺伝疾患である。泌尿器科には腎結石除去の目的で入院してきた。家庭は円満で,母親が付添ってきた。入院中に母親の妊娠が判明した。当時,当院はこの妊娠月での性別診断ができず,他院に紹介したい旨を母親に打診した。2〜3日して,他院への紹介は必要ないとの返事をいただいた。この症候群は知能障害も有し,はた目にも患児の悲惨さは目に余るものがあった。しかし,母親は産むという。宗教上の理由とは考えられず,確率1/2に賭けるといった不謹慎なものでもなく,ただ,この子がかわいい,2人目のかわいい子が欲しいという気持だったのではないかと推測する。退院後,人づてに,男児を出産したと聞いた。その後,患児は同症候群を発病した。母親は明るく2人の患児を小児神経疾患外来に連れてきているという。
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