とびら
父の日・母の日
金子 光
pp.1
発行日 1962年8月15日
Published Date 1962/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911692
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外国から移入されてきたことで,今ではすっかり日本の習性のようになった行事のひとつに「母の日」があります。5月の第二日曜日で,この週間には港に「お母さんありがとう」と書いた札をさげた紅いカーネーションの花があふれます。母を亡くした人は白いカーネーションをつけて,愛する母を追ぼするのです。国母陛下にも,母親代表がカネーションを献げ,こどもたちは母親に感謝の集りをもったりお小づかいの中から知恵をしぼって買ってきた小さる贈物をしたりして,その日は母親ブームにぬりつぶされてしまいます。私も母の日の集いで,「母をたたえる歌」の……慈愛は深く幾年の,さとしに清き涙あり……などとうたって涙した感傷にみちた時代を経験しました。
こんなに普及した「母の日」に対して,「父の日」がないのはなぜだろう?そもそも片親ということはありえない。「父の日がないのは不都合だ」という声をポツポツきいたこともあり,今でもときどきききます。そこでしらべてみましたら,あるのです。やはり外国移入ですが,6月15日(ちなみに老人の日は9月15日)だそうです。では同じようになぜ「父をたたえる」行事をやらないのでしょう?私は,試みに何人かの父親にきいてみましたら,その返事は,「改まって感謝されたりお礼をいわれたりするのはテレくさい」そうです。それよりやはり,こどもたちが心からのよろこびと感謝の気持を母親につくしているのを,かたわらからながめているのがうれしいということでした。
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