昨日の患者
子供の人格
中井 秀郎
pp.96
発行日 1994年3月30日
Published Date 1994/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413901162
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小児患者とはいえ,小学校高学年ともなれば,自分の病気に対する理解は十分に持つことが出来る。6年生のY君は,乳児期から幼児期にかけて,膀胱外反症,尿道上裂の手術を受け,以後も尿失禁に悩んできた。昨年,膀胱拡大術と頸部形成術(YDL法)を受けた直後からは,間欠的自己導尿のカテ挿入困難に苦しんだ。3度にわたるTUR尿道修復と,チーマン型セルフカテーテルの採用で,幸い現在は,家庭での1日5回の導尿で昼夜完全に尿失禁制が保たれているが,カテーテル挿入困難で退院が3か月も延びに延びていた当時は,本人のみならず,主治医(小生)にも暗黒の日々だった。ふだんは,凜しい少年でも,導尿練習の苦痛に涙をためるY君。表面だけは,強気で自信ありげの主治医。3度のTURの後だったか,主治医自らセルフカテーテルを持ち挿入すると,また痛みを訴える。またダメなのか?という不安感と無力感が主治医の脳裏をよぎった瞬間,つい不覚にも目がうるんだ。Y君に悟られまいと,下を向きながら指導していると,その辺は敏感な小学6年生。小生の様子からしっかりと,自分と自分をとり巻く状況を瞬間的・客観的に把握してしまったらしい。小生の顔をのぞき込むや,「先生,チョッと痛いけど,もう少しやって大丈夫だよ」。それまで痛みのため,何度も体をよじらせて,度重なる導尿練習を拒んでいた子が豹変した。…Y君の成長のお陰で,何とかスムーズな導尿方法が修得された。
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