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急激な円安が世を騒がせている.直近の1ドル144円90銭台は約24年ぶりの水準とのことで,コロナ禍やウクライナ情勢も相まってわれわれ国民の生活を直撃している.ただもっと長いスパンで円相場をみると,年平均レートで1980年代前半は220〜250円だったものが,1986年に168.5円と急激に円高となり,1987年には144.6円と今のレートに近い水準に至っているのだが,今とは真逆に「200円を割り込む円高なんて日本経済は大丈夫か?」と言っていた.ちょうど「格安航空券」(今のLCCとは全くの別物で,それまでバカ高い正規普通運賃とジャルパックなどの団体パッケージツアー運賃しかなかったところに,HISなどの新興旅行代理店が登場し,個人向けにツアー運賃の航空券を発券しはじめたもの)を入手した大学生たちが『地球の歩き方』を片手に,海外旅行へ行くようになった頃である.円高により円の現地での使い勝手が増し,一方日本国内では種々の規制により輸入品の価格が高止まりしていて,日本は何でも高いという「内外価格差」を強く意識させられた.現在輸入牛肉の高騰が「ミートショック」と呼ばれているが,そもそも当時は牛肉など気軽には食べられなかった.当時海外旅行から帰る際には誰もが3本の免税枠一杯に洋酒を買い込み,重い手提げ袋をヒイヒイ言いながら持って帰ったものである.東南アジアの旅行で屋台飯が日本円数十円相当で腹一杯食べられて感動したことも懐かしい.レートは同様でもこのあたりは今では逆に,日本を訪れる外国人観光客が日本の外食は信じられないほど安くて美味くてサービスがよいと感動している.当時は規制の既得権益で甘い汁を吸っている輩がおり,規制緩和で内外価格差が解消されればすべてよしとされていたが,そう単純にはいかなかったのである.今の円安も10〜20年後までの長いスパンではどのような位置付けになっているかわからない.いちいち右往左往せず,地に足を付けてできることをやっていくしかないだろうか.
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