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私にとりまして2011年,最初の『あとがき』です。昨年の『あとがき』では異常気象について書くことが多く,『猛暑とゲリラ豪雨』と『短い秋と早い木枯らし・初雪』が異常気象のキーワードでした。年末から今年の年始にかけては『記録的な寒波と豪雪』がキーワードです。地球規模の温暖化と異常気象はどのように関連するのでしょうか?温暖化によって北極や南極の氷が溶け出し,水蒸気から形成された厚い雲によって,特に冬には太陽光が遮られ寒波や豪雪になるという説もあるようです。このような異常気象のなかで今年は大変な花粉大飛散の年になると予測されています。おそらくこの3月号が届く頃には全国の耳鼻咽喉科医は花粉症診療に追われて疲労困憊,この『あとがき』をお読みいただく余裕はないかもしれません。
さて,今月の特集は『耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師へ―疼痛への対応』です。耳鼻咽喉科専門研修をはじめる医師のみならず,臨床の最前線では『疼痛への対応』は大きな問題です。疼痛はきわめてありふれた症状ですが,いまだ客観的,他覚的検査法がないため,その対応は容易ではありません。『痛み』とは何なのでしょうか?国際疼痛学会では,『実際または潜在的な組織損傷に伴って起こるか,またはそのような言葉を使って述べられる感覚的・情動的な不快な体験』と定義しています。注釈の中では,『痛みは常に主観的』であり,『痛みを訴える患者の痛みの経験が,組織損傷に由来するか,情動的なものが含まれているかを区別することは困難である。患者が自らの体験を“痛い”という表現で訴えるのであれば,痛みとして受け入れられるべきである。』と記載されています。つまり,“痛み”は身体が傷つくことなどによって誰にでも起こる痛みもあれば,トルストイが『イワン・イリイチの死』で『「痛みはどこへいった? おい痛みよ,おまえはどこにいる?」彼は痛みに注意を向けて見た。「ほら,ここだぞ。かまうな,痛みなど放っておけ」』と述べているようなきわめて主観的な痛みもあります。つまり,疼痛への対応では単に身体的診療のみならず心身医学的な視点で診療を行う必要があるということでしょう。本特集でもさまざまな疼痛について大変わかりやすく興味ある解説がなされており,専門研修をはじめる医師のみならず,臨床の最前線で奮闘するベテランにも読みごたえのある内容です。疼痛についての最新の知見を再認識していただければ幸いです。原著は9編の症例報告ですが,いずれも力作です。多忙な花粉症診療の合間にぜひ一読されることをお勧めします。
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