- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
新型コロナの第1波もやっと収束に向かっています。7月からは灼熱の真夏となり,今度は熱中症が問題となります。常にわれわれはその時期・季節に応じた疾患と向き合わなければなりません。熱中症は「暑熱障害による身体適応の障害によって起こる状態の総称」(日本医学会)であり,脱水による体温上昇と,それに伴う臓器血流低下により,めまい,失神,頭痛,吐気,強い眠気,気分不快,体温上昇や異常発汗などが生じるとされています。新型コロナでマスク着用が奨励される今年は特に熱中症に注意する必要があります。熱中症の歴史は古く,紀元前333年,ギリシャ マケドニアの王,アレクサンドロスがペルシャとの戦いでダレイオス3世を破った最も大きな原因が熱中症であったのではないかと記録されています。マケドニア軍は約4万人,一方のペルシャ軍は10万〜60万ともいわれ,圧倒的な劣勢のなかでマケドニア軍が勝利した原因として,暑さ対策であえて軽装にしたマケドニア軍に対し,重装備だったペルシャ軍兵士が熱中症により弱体化したのではといわれています。日本軍でこの問題にはじめて対応したのは当時の陸軍医総監であった森鴎外で,はじめて「熱中症」という病名を記載していますが,その後,昭和になり日本海軍がそのまま「熱中症」と呼んだのに対して,日本陸軍は「暍病」と病名を変えるなど,陸海軍での微妙な空気の違いが感じられます。いずれにしても世界大戦後の最も大きな問題である新型コロナのパンデミックのなか,熱中症に対しても例年以上に注意する必要がありそうです。
さて,今月号の特集は日常的に処置や手術を行う耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にとって重要な学習課題でもある「手術記録の描き方」です。特に専門医を目指す若手耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にとっては,これまでエキスパートがどのように術野を捉え,それをどのように記録として描き残したのか,きわめて学ぶことの多い特集になっています。新型コロナ対応で大変お忙しいなか,ご執筆いただいたエキスパートの先生方に改めて敬意と感謝を表するとともに,原著を含めて少しでも多くの耳鼻咽喉科・頭頸部外科医にお読みいただきたいと思います。
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.