文庫の窓から
『千金方』
中泉 行弘
1
,
林 尋子
1
,
安部 郁子
1
1研医会
pp.236-239
発行日 2009年2月15日
Published Date 2009/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410102614
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中医臨床経典という位置づけ
2008年3月の『中医臨床』(参考文献5)の姜興俊氏へのインタビュー記事で「先生が特にお好きな古典はどのようなものですか」という質問に対して,氏は『内経』『傷寒論』『金匱要略』『千金方』『寿世保元』『臨床指南医案』『外感温熱篇』『湿熱病篇』『温病条弁』『医林改錯』などを精読し,なかでも『内経』と『千金方』,および葉天士,薛生白,呉鞠通らの書に影響を受けた,とあった。そして,臨床で出会う寒熱併存・虚実兼挟・上下同病・表裏倶傷などの錯綜した複雑な証に『千金方』の温清併用・補瀉同施・上下兼顧・表裏同治などの雑合の法が解決に結びつき,それゆえ姜氏は『千金方』を中医臨床経典と位置づけていると述べられているが,これは『千金方』を一言で表した的確な言葉なのではないかと思う。
『千金方』の論や方は大部分は漢から六朝時代のものを集めている。が,その出典はあまり明らかにされず,自家の経験も述べられているので,清代の徐大椿のように『千金方』の処方は必ずしも神農に基づかず,効くものも効かないものもある(『医学源流論』)として批判する向きもある。とはいえ『外台秘要方』『医心方』『太平聖恵方』『聖済総録』はことごとく『千金方』を引用しているし,医経に準ずるものとして,その姉妹編である『千金翼方』とともに重要な医籍に違いない。
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