境界領域
ムコ多糖と骨疾患
長谷川 栄一
1
Eiichi HASEGAWA
1
1京都府立医科大学薬理学教室
pp.123-135
発行日 1969年2月25日
Published Date 1969/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904038
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
「君,このエビの甲羅を研究室へ持つて帰り,塩酸で煮てみたまえ.きつとグリココールがとれるよ」昼食の終つた教授は皿の上に残つたエビのカラを指して,傍らの医学生に命じた.教授が,自分の食いかすを実験材料に使え,などと今の学生にいったら,大衆団交で抗議されるかも知れないが,幸いにして時は1875年,学生はいわれるままに実験を行なつて,エビのカラから白色結晶を得た.しかしこれは教授の予想したアミノ酸のグリココールではなく,アミノ糖の1種が得られたのである.ムコ多糖の一成分であるグルコサミンはこのようにして発見されたものであり,その教授はドイツ生化学界の碩学,Hoppe-Seylerであつた.
この挿話からもわかるように,動物の硬成分と糖質とは深い関係がある.われわれの骨はリン酸カルシウムを主成分とするが,その生成にはムコ多糖と称する特殊の多糖類が,重大な役割を演じているのである.以下ムコ多糖と骨疾患についてのべる前に,蛇足かもしれないが,ムコ多糖の基礎的,生化学的性質や定量法にもふれ,さらに骨形成におけるその意義についても簡単に解説したい.
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.