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かつて,腹腔鏡下で胆囊を切除する手術が驚きをもって迎えられ,導入が進められた時期がありました.当時は創が小さいのが「売り」で,一種の心霊手術のようにも思えました.時代に遅れてはならぬと,ブタを使った「ラパ胆」の練習に行くと,元気な連中はすでに胃切除を始めていました.そのうちにヒトを対象とした腹腔鏡下胃切除術もあちこちで行われるようになりましたが,当初は非常に厳しい手術であり,大きな合併症を契機にやめてしまう施設もありました.そのころから現在までずっとこの手術をやり続けることができた「特別な」外科医たちに共通していたのは,抜群に開腹手術が上手かったことで,つまり,そもそも手術を行う才能にあふれていた人たちが導入初期の厳しいハードルを乗り越えてきたのだという印象を持っております.
私の施設ではすでに腹腔鏡下胃切除術を開拓していた医師がおり私は蚊帳の外であったことと,大腸疾患に対する腹腔鏡下手術の導入が遅れていたことから,私は腹腔鏡下手術の良さに気付くのが遅れ,開腹手術の精度と安全性には及ばないと感じながらその当時を過ごしてしまいました.しかしその後,ある研究会で腹腔鏡下低位前方切除術のビデオを見て,開腹手術では深くて狭いがゆえに非常にやりにくいところでの手技が,素晴らしい視野で容易にクリアーされているのに衝撃を受けました.遅まきながら,腹腔鏡下のメリットは創が小さいだけではないのだと気づかされました.見えにくいというのは手術をやりにくくするだけではありません.開腹下の直腸手術では実際に術野がしっかり見えるのは術者だけであり,患者さんの股間で両手に鉤をもって引いているだけでは,肝心なところは何も見えていないわけです.全員が同じ視野を共有し,術後に反復してビデオを見ることができることがどれだけ素晴らしいことか.最近の若い外科医がめきめきと腕を上げるのもよく理解できます.
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