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あとがき
小寺 泰弘
pp.498
発行日 2022年4月20日
Published Date 2022/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407213697
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2005年の国際胃癌学会の際,英語が苦手な部下からポスターに応募したはずの演題が口演になったので代わりに発表して欲しいと泣きつかれた.その発表セッションで私は偶然ロボット支援下手術と出会い,発表者の韓国人に声をかけたところ,丁度あなたと話をしたかった(本当か?)とのことで韓国に招待してくれた.そこではロボット支援下手術を見せてもらう代わりに,網囊切除の実情から13番リンパ節郭清の適応まで,当時の胃癌手術におけるあらゆる未解決な課題について2日間にわたり質問攻めにあった.この野心にあふれる若い韓国人の名はWoo Jin Hyungであった.
それ以降,国際学会で見聞きし同世代の欧米の外科医と雑談をした範囲では,ロボットの価値は既存の内視鏡手術がより円滑に行える点にあった.実際のところ,遠近感のない画面を見ながら直線状の鉗子で行う内視鏡手術は年配の医師には難易度が高いものであり,旧知のスペイン人医師の「俺には絶対できないと思っていた手術が,ロボットのおかげでできたぞ」という嬉しそうな報告を聞いて妬ましく思ったものである.しかし,膵臓というハザードの塊に近接する臓器をリンパ節とともに切除する複雑な手術は甘いものではなく,教室でのロボット支援下胃切除術の試みは4例目にして大きな落とし穴に嵌まった.患者さんやその御家族に対して取り返しのつかない結果になり,贖罪の念は一生消えることはない.同時に,ロボット支援下手術の適切な導入を進めようとする多くの同業者や企業に,計り知れない迷惑をかけることになってしまった.
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