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19年前に胃癌治療ガイドラインの第1版が出版されました.しかし,術後補助化学療法には確たるエビデンスがないので漫然と行うべきではなく,進行再発胃癌の化学療法においては標準治療として明確に推奨できるレジメンがないなど,それまでも脈々と胃癌治療が行われていたにもかかわらず,いかに何もわかっていないのかが無念さを押し殺すような筆致で綴られていて,口惜しく思った記憶があります.外科治療についても,大動脈周囲リンパ節郭清をしないと学会で腰抜け呼ばわりされる半面,海外ではD2郭清においても否定的な結果が出ていました.胃癌診療に携わる医師として一体どうすればよいのかわからずに悶々と過ごすことになりかねなかったのが私の青春時代でした.幸い,多くの臨床試験に参加しているがんセンターに勤務していた私は,どうすればよいのかわからずに悩む代わりに,どうすれば患者さんからランダム化試験の同意を取ることができるのかで悩みながらその時代を過ごしました.こうした努力の結果が実を結んだ頃には,私は現在の職場に異動しておりましたが,得られたエビデンスがガイドラインに記載されたのを見てうれしく思ったものです.こうした時代を経て,現在では臨床試験や治験は見違えるように活性化しております.ガイドラインは頑張っても3年に一度程度しか改定されないわけですが,その間にも第Ⅲ相試験による重要なエビデンスが次々に創出されてくるので,日本胃癌学会のガイドライン委員会ではその都度ガイドライン速報版を作成,発信して対応している状態です.つまり,現在ではガイドラインに掲載すべきネタが豊富にあり,それだけ胃癌の治療も充実してきたということになります.そして最新版である胃癌治療ガイドライン第5版の完成後も,世の中はどんどん動き続けております.というわけで,2018年の10月号で第5版を特集したばかりなのですが,今回はこの次のガイドラインで話題になりそうな内容を集めてみました.自分がガイドライン作成委員を外れたから,というわけではないのですが,アウトローに徹してこのような企画を組みました.しかし,おもにガイドライン委員の先生方を中心に執筆をお願いしたところ,内容はイケイケモードには程遠い重厚なものに仕上がっております.改めてわが国で胃癌のトップリーダーとなっている先生方の底力を見る思いです.読者の皆様,第6版を楽しみに待ちましょう.
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