- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
開腹手術のビデオを撮るのは大変です.肝心な所で術野に頭が入る.さらに細部の撮影を遮るように手が入る,電気メスのコードが入る.ゆえに必ず「映画監督」が必要ですが,通常は後輩であるそいつに「頭!」「手!」と連呼されると,うるさくて手術に集中しにくい.と言って,遠慮されてしまうとまともな映像は撮れないので,術者はフラストレーションをためながらも我慢して「監督」の言う通りにしなければならない.というわけで,よほどの貸しでも作らないとこのようなやっかいな撮影のために憎まれ役を務めてくれるような人はいませんので,私が自分の手術の映像を初めて見ることができたのは40歳代の半ば頃だったでしょうか.その後もどんなに頑張って「勝負ビデオ」を撮ろうとしても,肝心なところで頭が入ったり,ピントがぼけたり,人に見せられないような出血をしたり.そもそもカメラの目線(患者の正面から)と術者の視線(患者の右側方から)はズレています.実際には術者からよく見えるところを剝離していても,ビデオでは死角になって見えないところを大胆に削っているように見えてしまう.さらに,鑷子で把持した組織に電気メスで通電しているのに止血が得られずイライラした場面など,ビデオで見てみると,そもそも鑷子に当てているはずの電気メスの先が鑷子に触れていないこともあることに気が付きました(恥ずかしい).
一方,腹腔鏡下手術では手術を行った数だけ確実にビデオが撮影され,術者と同一目線の映像が容易かつ確実に撮影されてきます.自分の手術を後から皆にじっくりと見られてボコボコにされるのは,それはそれで大変かもしれませんが,成長の糧になります(これは素晴らしい).しかし私については,遅まきながら腹腔鏡下手術も実施するようになって以降,一緒にビデオを見て指導してくれる愛情ある指導者が見つからず,ひとりで再生しています(寂しい).開腹でも腹腔鏡下でも共通しているのは,夢中になって手術をしている最中には自分で気づけていないことがかなりあるということであり,手術の時に感じた手ごたえとは裏腹に,実際の手術の出来栄えは今一つ冴えないことが多いです(悔しい).
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.