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読者の皆様は,診療ガイドラインに何を望まれるのでしょうか.すでに当たり前となった事実の解説よりは,CQの充実でしょうか.Minds診療ガイドライン作成マニュアルによれば,ガイドライン作成の第一歩はアルゴリズムの作成であり,その際に何らかの迷いがあって作図が止まってしまうようなところにCQが策定されるのだそうです.つまり,実地臨床の中で少なからず遭遇する悩ましい疑問(例:胃癌の肝転移は切除してよいのか?)に答えるのがガイドラインの使命の一つであり,このために客観性の高いシステマティックレビューを行い何らかの解答を導き出すとともに,その推奨度,エビデンスレベルなどを記載するのです.それでは,その治療法が保険適用でない場合でもガイドラインには掲載されるのでしょうか.実は,胃癌診療ガイドラインで扱われる内容は,読者が速やかに実践できる内容,すなわちすでに保険適用となっている医療行為に限られています.
先進医療や患者申し出療養制度で取り上げられ,話題となって久しい治療に,腹膜転移に対するパクリタキセルの腹腔内投与があります.これを検証する臨床試験は様々な不幸な偶発的な出来事の結果,統計学的に有意な効果を示すに至らず,厚生労働省は保険適用として認可しませんでした.「惜しい」結果なわけだし,パテントの切れた安価な薬剤だし,安全性に関わるデータも潤沢にあるのに新薬と同様のお堅い判定が出たことに対し,臨床試験に関わった医師たちは不満をため込んでいるところです.実は,せめてガイドラインに載っていれば認可しやすいという非公式な声もありますが,胃癌治療ガイドラインのこれまでのポリシーでは,記載されるはずがありません.ところが,Minds診療ガイドライン作成マニュアルには,「わが国における医療の質は,医療機関,医療者の自主的な努力によって支えられているが,同時に,医療保険制度などの公的な仕組みによる影響も大きい.したがって,診療ガイドラインの提案する推奨が,医療保険制度などの医療制度,医療政策の決定に際して配慮されることが望ましい」と記載されています.「世の中には自由診療など保険適用外でも実施する方法はあるのだから,良い方法であれば適用外でもガイドラインに載せなさい,そうしたら考えるよ」というのが天からの声です.「鶏が先か卵が先か」の類の話ですが,何とか載せてもらえないものでしょうか.ガイドラインは多くのものを背負っているのです.
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