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「天才外科医」という言葉があり,テレビ欄で時々見かけますが,やっかみもあるかもしれませんが,私はこの言葉は好みません.でも,天才ピアニストはいます.凡人がどんなに練習しても絶対に指が回らない難曲を簡単に弾く才人なら結構いるのかもしれませんが,天才とはその程度のレベルではありません.マルタ・アルゲリッチという「天才」女流ピアニストが,あるコンクールに参加した時のことだったと思いますが,同じコンクールの参加者が,自分の部屋にこもってプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番という不協和音の多い楽譜が真っ黒な難曲を何度も繰り返し練習していた時のこと.興味をひかれてずっと壁越しに聴き続けていたアルゲリッチは,もうそれだけで自分で弾けるようになってしまったそうです.おそらく1950年代の後半,まだプロコフィエフの楽譜など簡単には入手できなかった時代のことだと思いますが,ありえないようなエピソードです.やはりミューズの世界には天才はいるのです.
しかし,名人と言われる外科医の手術ビデオを見て,「何だ,ああすりゃいいんだ.簡単だ」とばかりに初めての手術でやれてしまう研修医はなかなかいないと思います.外科医も医学部は出ているので,勉強ならある程度はできたのかもしれませんが,幼いころから動体視力や空間識別能,立体感覚,関節覚,テレビゲームの上手さなど,様々な能力でふるいにかけられ選抜されてきた特別なヒトなわけではありません.そもそも,手術のような自然の摂理に反することを行う者に,天与の才が与えられることはありません.これは神ではなくヒトの営みであり,運も多少はあるかもしれませんが,たゆみない探究心,好奇心,創造力に加え,忍耐力,胆力,危機察知能力など様々な能力を備えたヒトが,人知れず努力を重ねて優秀な外科医になるのだと思います(多分).結果として優秀な外科医になられた先生方が,一体どのような縁があり,そこにさらにどのような努力を重ねてそうなられたのかを一度お聞きしてみたい.こうした声に応えて本特集が編纂されました.私などが読んでも今さら手遅れの感はありますが,若い読者諸君,この特集を読んでmotivationを上げてもらえれば最高です.君ならまだ間に合う!?
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