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胃癌を専門としている普通の外科医として,自ら会費を払ってAmerican College of Surgeonsをはじめとする米国の学会の定期学術集会に参加していた頃,折角だから胃癌の勉強をしたいと考えてもそれは無理な注文であった.彼の地の学会では,すでに希少癌になり下がった胃癌の演題などはほとんど見られないのである.上部消化管外科で主題演題を探してみても,何か特集が組まれているとすればその内容は多くの場合,肥満手術であった.と言っても,さらに詳細を述べるなら,高度肥満に苦しむ患者を対象とする手術ではなく,2型糖尿病患者をインスリンの自己注射などから解放するメタボリックサージェリーがテーマとなっていることが多かった.これは興味深い分野であり,もしかすると透析患者に対する腎移植に匹敵する画期的な治療法かもしれないと思ってわくわくしたものだ.しかし,それは今回の特集の中心ではない.物事には順番があり,わが国ではようやく高度肥満例に対するsleeve gastrectomyが保険適用となったところである.まずはここからのスタートであるが,それでも患者さんに手術療法を決意していただく前にやるべきことが山ほどあり,その多くが外科医の業務外の仕事である.忙しい外科医としては,無事に手術が終わりさえすれば,自分の役割は終わったものと考えたいものである.なかなかそうもいかないのだが,少しでもその方向に向かいたければ,肥満手術にはチームが必要であり,多くの専門家に関わっていただいてしっかりと準備をすることで,外科医は手術に集中することができることを知るべきである.もちろん外科医としても手術台や病室の便座が何キロまで耐えうるかを調べておく必要はあるのだが.そういうわけで,今回の特集は一見外科学と関係なさそうな内容も含んでいるが,そこを勉強せずに手術手技を覚えるだけでは,肥満手術の導入はおぼつかない.肥満手術は集約化された施設で行えばよいので,本書は万人向けの内容ではないかもしれないが,胃癌を専門としている外科医はそのうちに職を失う可能性もあるご時勢である.近未来にメタボリックサージェリーまで適応が広がることを見越して,このタイミングで肥満手術の勉強をしておいてはどうだろうか.コロナ禍の今,敢えて行うべき手術ではないことは言うまでもない.今は我慢して勉強にとどめ,体制を整えて,コロナの収束に備えよう.
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