- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
専攻医時代には体力的にきつい日もあった.ほぼ眠れない当直が明けてそのまま普通に丸一日勤務するのは当たり前として,その日の勤務が終わってやっと自分の家に帰った後で,また夜中の緊急手術で呼ばれたりしたことはないかと問われると,あると答えざるを得ない.まあ,家と言ってもどうせ病院の近所なのだが.上司も疲労困憊するまで働かれ,かつわれわれにも日々指導してくださっている中でのことなので仕方がないのだけれど,若手の勤務状況をより詳細に反映できるシステムがあればこのような連続勤務は避けられるのではないかと,個人的には感じていた.当時は何となく元気そうなやつを呼び出す形で対応するしかなかったのだろうし,こちらも手術ができるなら寝なくて良いなどと思っていた節もある.しかし,ある年齢になるとこういうのはちょっと自分には無理,ということになっていたと思う.やはり持続可能な医療体制にはきめの細かい労務管理が必要なのである.
それにしても,あれから30年以上の時が経過したわけだが,一定の連続勤務の後には法律に基づいて必ず休息を取れるような世の中になるとは夢にも思わなかった.お上はわれわれのための法律なのだからしっかり働き方改革に取り組むようにとおっしゃるが,確かにその通りであり,私が外科医として常々望んでいた,手術にもれなくベストコンディションで臨めるようにしたいという理想はこれでようやく実現するのかもしれない.しかし,かつてのような無茶な勤務が絶対に生じないようにと罰則をちらつかせながら命じられると,対応可能な医師がいないので今夜は救急を受けられない,などということがどこかで起きそうである.そこまで余裕のある医師の配置がなされている病院など決して多くはないからだ.全国一律で働き方改革を実現するためには医師の地域偏在,診療科偏在をなくす必要があるが,残念ながらそのような難事が2024年4月までに達成されることはない.とは言え,期限を切って旗を振らないといつまでたっても改革は進まないということで,国もやむなく荒療治に出ているのだろう.
Copyright © 2022, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.