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本号では自殺対策の現状を特集として取り上げた。自殺者の多くが精神疾患と関連していると言われていることから,自殺予防は精神保健・医療にとっては試金石となる課題である。いわゆる1次から3次までの予防精神医学の力を動員して,精神保健では地域,職域,学校での啓発から地域ネットワーク作り,精神医療では“多職種チーム医療”,“アウトリーチ”などさまざまな手法を用いて幅広い予防対策が行われる必要があり,国策レベルでの課題である。
8年前(2007年8月号)と5年前(2010年6月号)の編集後記で自殺対策基本法とその自殺総合対策大綱(10年間で自殺者を20%減らすという目標)を取り上げた。そこでは重点施策として,1.自殺の実態を明らかにする,2.国民一人ひとりの気づきと見守りを促す,3.早期対応の中心的役割を果たす人材を養成する,4.心の健康づくりを進める,5.適切な精神科医療を受けられるようにする,6.社会的な取り組みで自殺を防ぐ,7.自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ,8.遺された人の苦痛を和らげる,9.民間団体との連携を強化する,が挙げられていた。その後,わが国の年間自殺率は徐々に減少し始め,当時の10万人あたり約25人からようやく20人を下回り,当初の目標がおおむね達成された感がある。しかし,予防や早期介入に関する精神保健・医療に力を入れている欧米の先進国と比べると,日本の自殺率はまだ2倍もあり,さらに上を見て問題を打開していかなければならない。本号の特集を見ると分かるようにさまざまな領域での優れた取り組みには目を見張るものがあるが,優れたモデル事業の成果を全国津々浦々に均てん化することは容易ではない。まさに,国策レベルでの強力な推進戦略が求められる。
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