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米国精神医学会のDSM-5(2013年5月)と国際疾病分類ICD-11(2015年完成予定)における議論は,従来の疾患概念の“脱構築から再構築”という大きな課題を抱えながら展開してきました。DSMとICDに象徴される精神科診断学は,単に医学の視点だけではなく,行政,経済,法律など社会的にも広く影響を及ぼしているために,さまざまな視点での議論がありました。特に,DSM-Ⅲ以後,診断分類システムの信頼性が重視されてきたにもかかわらず,臨床遺伝学からの疾病重複問題にはじまり,分類システム上のさまざまな問題点が指摘され,今回のDSM改訂作業の中では,信頼性に加えて,疾患概念の妥当性と臨床的有用性をどうするかが議論されてきました。統合失調症をはじめとする精神病性障害では,パーソナリティ障害の領域で古くから問題となってきたような健常との境界に関わる表現型の連続性問題と,発達障害や気分障害との症候学的,遺伝学的近縁性という疾患間の重複問題とが改訂作業における重要な課題でした。前者の連続性問題は,精神病性障害の推定的前駆期である“減弱した精神病症状群”を新しいDSM中でどう扱うかで倫理的問題も含めて多くの議論がありました。最終的には,この“減弱した精神病症候群”は公式の診断基準(“section Ⅱ”)の中ではなく,将来さらに検討を必要とする項目である“section Ⅲ”に収められました。一方,後者の重複問題については,当初,“精神病クラスター”として統合失調症と双極性障害をまとめる動きもありましたが,最終的には従来のカテゴリー分類を踏襲しつつ症状の次元評価を付記するような折衷的な診断法が採用されました。具体的には,精神病性障害にみられる8つの症状領域として,幻覚,妄想,解体した会話,異常な精神運動性行動,陰性症状,認知障害,うつ,躁をそれぞれ5件法によってそれらの重症度を得点化できることになります(これもsection Ⅲに記載されている)。
本号の「展望」では,統合失調症の認知障害の実証的研究を長年にわたり実践されてきた倉知正佳氏にご寄稿いただきました。DSM-5では,統合失調症の診断基準のB項目に認知障害を加えようという動きもありましたが,最終的には上述のように症状次元の一つとして取り上げられました。倉知氏は「展望」で,なぜ統合失調症において認知障害が重要なのかを,ご自身の研究を織り交ぜながら臨床的および病態論的に幅広く解説されています。
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