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本号の巻頭言において,池淵先生は精神障碍者のQOLについてふれられ,その中で,QOLの数字を挙げられています。家族会を通しての調査というバイアスはありますが,再発を繰り返しながら慢性に経過するような一群の患者(平均約43歳)の実態調査では,“一人暮らし”,“結婚”,“仕事や学校への参画”などは,10%前後程度しか実現できていないという厳しい現実のあることがわかります。着実に社会心理療法と薬物療法が進歩し,ケアマネージメントをはじめアウトリーチ医療や多職種チーム医療といった濃厚な治療手法も導入されつつあります。欧米ではそうした取り組みが進んでいるにもかかわらず,その恩恵が全ての障碍者には行き渡っていないという現実があると聞きます。わが国では“入院中心の医療から地域生活中心”とうたわれて久しいのですが,人口あたりの精神科病床数や在院期間といった数字をみると,“長寿大国日本”としてはまだまだ足元が覚束ないように思います。
近年,回復(リカバリー)をより科学的に捉えようという研究が増えてきました。回復概念には,個人の自立意識や自己決定という視点での“個人的経験モデル”がありますが,一方で,症状寛解と機能寛解から定量的に規定しようという“臨床的回復モデル”があります。後者において,症状寛解は症状評価尺度を使用できるし,機能寛解は自己ケア,家事,パートナー関係,家族関係,仲間関係,地域とのかかわり,学業・職業を総合的に評価するWHOの社会機能障害尺度などが活用できます。この臨床的回復モデルを使用してオランダで行われたMESIFOS研究(Wunderinkら,2009年)によると,精神病の初回エピソード者での2年後の転帰は,心理社会療法を十分に行ったにもかかわらず,症状寛解に至った者が約半数,機能寛解に至った者が約4分の1で,その両方が達成できた(“回復”)者は,20%弱でした(統合失調症に限定すると10%以下)。少なくとも臨床的回復モデルでの回復率を高める努力がまだまだ求められており,こうした寛解の指標は治療研究のみならず,日常臨床でも患者および家族との治療目標の設定に関する話し合いにも役立てることが可能で,これは個別化医療の原点となるものかもしれません。
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