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編集後記
H. M.
pp.628
発行日 2010年6月15日
Published Date 2010/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101653
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2007年8月号の編集後記において,10年間で20%自殺者を減らすことを目標として出された自殺対策基本法(2006年)と自殺総合対策大綱(2007年)に触れ,予防精神医学の視点の重要性を述べた。その後,この大綱に基づき各地域でさまざまな取り組みが行われてきた。たとえば,岩手県久慈地区での岩手医科大学の取り組みからは,自殺対策には単なる啓発以上に地域でのゲートキーパーを中心としたネットワーク構築による“地域作り”の重要性が指摘されている。しかし,こうした取り組みには地域による温度差が著しく,おそらく久慈地区は例外的なもので,残念ながら2009年に至っても12年連続で年間の自殺者は3万人を超えた。その背景には逆風もある。2007年の改正医療法による医療計画制度として国は“4疾患5事業”を掲げたが,疾病負担の占める比率が最も高い精神疾患はこの4疾患には含まれていなかった。また,数年前には景気の回復に伴い自殺者の減少が見込まれるとの楽観的な指摘もあったが,2008年のリーマン・ショックの影響は予想に反して本邦での景気にも大打撃を与えた。一方で,精神医療の足元も覚束ない。2010年に全国自死遺族連絡会から,自殺者の精神科受診率は増加しているものの,抗うつ薬治療における問題点が指摘された。精神医療の質も実は大問題なのかもしれない。
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