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編集後記
H. M.
pp.164
発行日 2015年2月15日
Published Date 2015/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204865
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近年,精神病の早期介入研究は飛躍的に進展しました。そして,今回のDSM改訂では,精神病の前駆状態としての「減弱精神病症候群」が活発に議論され,結果としてそれは公式の診断(第Ⅱ章)ではなく「今後の研究のための病態」(第Ⅲ章)で扱われることになりました。これは主にこの診断に関する一般臨床での信頼性が確立されていないためで,DSM-5精神病作業グループ自体も,さらに多くの早期精神病研究者も歓迎する結果でした。
DSM-5精神病作業グループは,当初の「精神病リスク症候群」から「減弱精神病症候群」へと名称を変更し,重大な概念シフトを行っています。元々,精神病の“発症危険状態”や“超ハイリスク”の研究は,精神病の前駆期研究から始まり,当然,精神病への移行をいかに防ぐかが最重要課題でした。その結果,精神病に移行しない“偽陽性”群への無用な介入への批判とつながり,批判者の中には介入研究自体をすべて否定する者までいました。DSM-5精神病作業グループは,他の精神疾患の定義と同じように“リスク”ではなく“疾病性”(減弱精神病症候群は苦痛や能力障害のために何らかの支援を求めてくる患者群であるため,DSMの疾患定義に合致)を重視する方向にシフトしました。ところで,この偽陽性問題の背景には,クレペリンやブロイラーの統合失調症概念とは相反するような,近代の精神科診断学における精神病症状偏重の問題があります。このことは,精神病性障害概念の脱構築,つまり精神病症状では疾患を構成できないという議論にまで発展しています。早期介入の議論は,まさにこうした精神科診断学の本質的問題が表面化したものと言えます。
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