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成人の精神障害では,児童青年期になんらかの萌芽的症状や問題行動が先行してみられる。ニュージーランドの出生コホート研究の報告では,26歳時点で精神障害と診断されたものの実に75%が11~18歳(50%は11~15歳)でなんらかの精神的問題を抱えていた。最近,フィンランドの出生コホート研究で,24歳までの男性の自殺行動が,8歳時点での心理社会的問題や情緒・行動上の問題で予測できると報告された。これらは,当然のことではあるが,児童青年期のメンタルヘルスが予防精神医学にとっていかに重要であるかを示している。世界的には,児童青年期に焦点を当てたモデル(“youth focused model”)に基づき,こうした若者の問題を扱える専門家の育成,医療・保健福祉・教育領域での啓発,国民の偏見や差別の是正が重要で,それを踏まえて,メンタルヘルスも含めた健康と福祉全般を統合した地域サービスの必要性が叫ばれている(Patel et al, Lancet 2007)。精神病に対する早期介入を実践している先進国では,国家的取り組みとして若者を対象とした地域での多職種によるチーム医療を展開している。
本号の「巻頭言」では歴史の流れを踏まえて,本邦における児童青年精神医学の厳しい現状と展望が述べられている。ところで,精神病の早期介入を推進しようとすると,まさに児童青年精神医学が抱えてきたものと類似の問題に突き当たる。先端医療は実績が目に見えて評価もしやすく国家的な支援を受けやすいが,精神医療は成果が得られるまでに10年,20年という単位で時間がかかり,その評価も難しい。たとえば,初回精神病エピソードの症状と機能の転帰に関与する要因には,病前適応,認知機能,併存疾患,治療アドヒアランス,治療の質と構造,精神症状の未治療期間などが知られており,早期介入の治療成績を評価するだけでも,これらの要因をすべて取り込み,大規模で前方視的な疫学コホート研究が要求される。児童青年期の問題は,児童を専門としない精神科医にとっても重大関心事であるが,本邦の現状を知ると精神科医ですらこうした早期介入の流れに懐疑的になってしまうようである。“超法規的”な政治判断が求められる領域なのだろう。超少子化の折,若者のメンタルヘルスを等閑にすることは国家存亡にかかわるという指摘は深刻に受け止めたい。
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