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Ⅰ.緒言
精神科領域における薬物療法は,Phenothiazine系薬物,Rauwolfia Serpentina製剤に端を発し,その臨床的有効性と相まつて極めて重要な位置を占めるとともに,その後も続々と新製剤の誕生をみて将に百花撩乱といつた盛況を示すにいたつた。これら各種製剤の広汎なる導入により精神病院はその治療面,内容,構造,管理上の各方面において全く面目を一新することを余儀なくされ,従前の精神病院特有な絶望的な陰うつさといつた面は一掃され,われわれ精神科医はもちろんのこと看護婦,看護人にいたるまで前途に明るい希望を持つてよりよき環境の中で精神疾患の治療に専心することが可能となりつつあることは同慶に堪えない。一昨年来新しいPhenothiazine系薬物の一つとして登場したLévomépromazineは大略Chlorpromazine(以後C. P. と略記)と似ているがさらに強力かつ特異な薬理作用により各方面の注目するところとなり,うつ病ないし抑うつ状態を始めとして精神分裂症の精神運動性興奮,幻覚,妄想などの異常体験,衝動行為などにもC. P. より少量で著効を示すとともに,C. P. などの無効の陳旧性分裂病を始めとして各種の精神疾患に用いられ,現在ではその適応,使用法なども大体諸家により確立されたようである1)2)3)4)5)。われわれも一昨年来数百例の症例に意欲的に投与し多数の興味深い治験例をえているが,この方面では諸家の多数のすぐれた報告があるので割愛し,従来よりほとんど手がつけられていなく比較的治療の盲点とされている「てんかん」の異常性格的興奮,精神運動発作,持続性精神変調などをすべて包括しての精神症状を主対象としてLévomépromazineを試用し予想外の効果を見出したので略記する。
従来からC. P. などのPhenothiazine系の精神安定剤はその強力な鎮静作用にもかかわらず,「てんかん」患者に用いると発作に対しては臨床的にも脳波的にも増悪させることがあり一般に「てんかん」患者に対するこれら薬物の使用は敬遠されていた6)。それにもかかわらずC. P. と同系統の薬物であるLévomépromazineをあえて使用したのはもちろん必要にせまられたことにもよるが,つぎのごときささやかな動機もあずかつている。すなわちLévomépromazine服用中の分裂病患者に電撃を併用したところ,いわゆる電気がかかりにくく通電時間の延長を必要とした結果大多数に通電部位の火傷を認めるにいたつた。C. P. を大量服用中の者に電撃を併用するときやはりかかりにくいことを経験していたのでC. P. とLévomépromazineの抗けいれん作用を比較してみるとつぎのごとくである。
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