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今年の夏は異常な猛暑で,熱中症の多発からコメの作柄などまでさまざまな影響がみられた。一方,尖閣諸島問題などでは平和ボケの眠気を覚まされた感があるが,これは現実を多面的に正確に把握する好機ともいえる。日本の精神保健,精神医療もこの辺で現状把握をし直して改革の一歩を踏み出す必要があるだろう。一方,世の中の喧騒とは関係なく,秋が駆け足で走りすぎていきそうであるが,自然の中でほっとした心の安らぎを味わってみたいものである。
「巻頭言」で古川教授は,生物学的な研究では検査データの改善に目標があって,最終的な臨床結果の改善までを目標にしていないと述べている。臨床研究では真の臨床目標に向かって,多数(2,000例)の対象と周到な計画に基づいて研究を行い,たとえば抗うつ薬の第一選択薬の用量は何mgか,第二選択薬は何かなどを明らかにしようとしており,この結果は世界的に影響が大きいという。臨床的な判断がある条件のもとで統計的にはっきり示されていれば,安心できるということであろう。日本でなかなかこの領域の研究者が育たないのは地味な仕事のためであろうか。「研究と報告」では森田達也氏らの「がん患者が望む「スピリチュアルケア」」が印象深い。89名にインタビューした結果であるが,非常に示唆的である。すべての精神的苦悩に対して「よく聞いてくれる」「気持ちをわかっていっしょに考えてくれる」ということの大切さが繰り返し語られた。また,「予測される経過や予後をあらかじめ聞いて,自分でいろいろなことを決める」という前向きな考え方と,「死のことは考えずに普通に毎日を過ごす」という受容的な態度の二通りがあって,その人にあった対応が望まれるという。8つの苦悩に対して38の方策が抽出された。緩和ケアにとってきわめて有用な研究結果であると同時に,日本人の死生観をうかがい知ることができた。また日戸由刈氏らの「アスペルガー症候群の学齢児に対する社会参加支援の新しい方略」では,自閉症では困難な仲間づくりを支援するプログラムを作り,小集団で興味に沿った課題設定を行い,仲間関係の形成を図った。さらに,親支援のプログラムを作り親のサポートを得て,仲間づくりが進展し維持されたという報告は,アスペルガー症候群の学齢児の発達を支援する方法として興味深かった。
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