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はじめに
従来,呼吸困難感が出現する機序としてCampbellらの長さ—張力不均衡説に基づき,慢性閉塞性肺疾患(COPD)では気道抵抗の上昇に抗して換気を維持しようとする呼吸筋の張力と,その結果生じた筋の長さおよび肺気量の間に不均衡を来すためのものと考えられていた1).最近では,呼吸困難感は換気刺激の種類によらず,呼吸運動出力の強度によって決定されるとするmotor command theory2)が有力である.すなわち,末梢の受容器から求心路を経て達した刺激によって脳幹から呼吸筋への呼吸ドライブ(呼吸運動出力)が働くとき,同時にこれと等価な呼吸運動出力が脳幹から大脳皮質感覚野へ上行性に投射される(corollary discharge).その結果として,呼吸困難感が生じるものと考えられている(図1).しかし,呼吸困難感は呼吸に関する不快感を総称するものとされており,この説のみで完全に説明されるものではない.呼吸困難感の発生には化学受容器や機械的受容器から直接に大脳皮質への求心性入力も関わっている可能性が指摘されている3).
このように,脳幹の呼吸中枢群からの運動出力の大脳皮質へのコピーが呼吸困難感を増強させるとの理論によると,呼吸困難感を軽減させるためには,①呼吸の化学調節系を介して呼吸を刺激する低酸素血症,高CO2血症および呼吸性アチドーシスに対する治療:酸素療法 ②神経調節系を介する機序として気道抵抗の上昇に伴う代償的な換気反応(load compensa—tion)に対する治療:気管支拡張薬 ③同様に神経調節系を介する換気装置としての胸郭および呼吸筋の運動制限に対する治療:a.運動療法,呼吸筋トレーニング b.外科的治療 ④脳幹大脳部の中枢神経活動に対する治療:鎮静薬・麻薬,胸壁振動刺激などがある.これらの項目について主にCOPDにおける呼吸困難に対する対症療法の機序を中心に述べる.
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